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『ピダハンー「言語本能」を超える文化と世界観』のレビューDaniel L. Everett著 屋代通子訳

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原題:Don’t Sleep, There Are Snakes: Life and Language in the Amazonian Jungle

ピダハン(正確にはピーダハーンの方が近い発音、ハーンに強勢を置く)は、アマゾン川支流の一つ、マイシ川沿いに暮らす部族です。彼らの話すピダハン語は世界の言語の中でも最も研究されていない言語の一つで、約400~500人のピダハン族を中心とする人々によって話されています。ピダハン語はまた、近隣の言語に似通った言語が無いことも特徴的で、これがこの言語習得の難しさに拍車をかけています。

著者のダニエル・L・エヴェレット氏はアメリカ人言語人類学者であると同時に、伝道師としてピダハンの村に入り、彼らと生活し、彼らの文化・言語を研究しました。彼のミッションは主に2つあり、ピダハン語を習得すると同時に、聖書をピダハン語に翻訳することであり、アメリカ教会から援助を受けていたのです。

彼は家族とともに断続的にピダハンの村で生活し、30年をその研究に費やしました。この本では、彼がどのようにピダハンたちと関り、学び、ピダハンによって受けた思想や信念の変化が生き生きと語られています。

本書では3つのパートに区切られていて、メインパートは第1部の「生活」と第2部の「言語」にボリュームがさかれています。最後の第3部「結論」の部分は、伝道師として村に入った彼が信仰を捨てるにいたった経緯が短く語られています。

ピダハン語を研究する言語人類学者として執筆されていますが、言語研究者のみを対象とする論文ではなく、一般読者を対象として執筆されているので、言語学の専門的知識がなくても読みやすい本になっています。

第1部の生活部分では、ピダハンの日常生活がいかに私たちの常識とかけ離れているかという点が詳細に描かれています。中には、先進国に暮らす私たちの水準からすると受け入れづらいくらい奇妙なふるまいもあり、正直私はこの第1部の途中で読むのがいったん嫌になったものです。

第2部の言語パートは、多少でも言語学に興味のある人なら、きっと知的好奇心をかきたてられることと思います。ピダハン語の特徴を思いつくままざっと書き並べると以下のようになります。

  • たった11の音素しか持たない声調言語である
  • 「こんにちは」「ありがとう」「ごめんなさい」といったコミュニケーションを円滑にする表現を持たない
  • 数字表現がなく、1単語で色を示す単語も存在しない
  • 関係詞構文やthat節を使った間接話法がない(本の中では「再帰=リカージョン」を持たないと説明されています)
  • 動詞の活用が複雑で(理論上)65,000以上もある
  • 基本的に、直接体験したことしか話題にしない

最後の「直接体験しか話題にしない」に関連して、ピダハンの世界には天地創造のような伝承や神話がないことにも、筆者は驚いています。

言語セクションでは現在の言語学界隈で議論されている論説にも触れられており、著者のダニエル氏は「文化は言語の語彙だけでなく、文法にも影響を及ぼす」という結論に至っています。そのあたりの詳しい説明は、ぜひとも本書をお読みください。

この本では、ピダハンの文化と言語について本文の大部分が費やされていますが、短くまとめられた結論部分も非常に興味深いパートです。

ピダハンの生き方を間近で見て、数十年にわたり彼らと直接交流を深めてきたダニエル氏は、キリスト教を布教するという目的があったにもかかわらず、その信仰を捨ててしまいます。その結果、ピダハンの村でいっしょに暮した家族をも失うことになるのです。

それほどまでに彼の人生に大きなインパクトを与えたピダハンは、私たちの常識からみれば少し奇妙な文化と信念を持ち、それをひたすら貫き通す頑固な人たちのようです。しかし、経済的に豊かな先進国アメリカと比較して、圧倒的に幸福そうに見え、その日常は笑顔にあふれているのです。

何をして彼らにそれほどまでの充足感をもたらしているのか、それもこの本を読み終わるころには、なんとなくその解答のヒントが見えてくるのではないでしょうか。

ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観

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