広東語は、中国語の方言の一つですが、広い範囲で話されています。主に、香港と中国本土の広東省で使用されていますが、そのほか、世界中にある中華街でも通用します。
広東語を学習する人は、香港で広東語を使うことを目的としている人が多いと思います。もちろん香港で覚えた広東語も、中国広東省で十分通じます。しかし、そこには微妙な違いがあります。香港の広東語と中国広東省の広東語の違いについて、考えてみました。
最大の違いは表記文字
まず、香港と中国広東省に行くと、最大の違いは表記文字です。
香港では、漢字の繁体字が使われるのに対して、中国本土は簡体字に統一されています。外国人の場合、その違いにまず戸惑うことでしょう。ただ、広東語は主に話し言葉として習得するものなので、表記文字にあまりこだわる必要はないのかもしれません。
また、繁体字も簡体字も漢字ですので、眺めていると何となくわかってくるものです(笑)。ですから、それほど神経質になる必要はないでしょう。
ボキャブラリーが違う
次の大きな違いは、ボキャブラリーだと思います。
香港では、広東語のほかに英語も話されています。そのため、香港人の話す広東語には、英語や英語からの外来広東語がちりばめられています。
これは、英語を理解する人が、香港広東語を学ぶときにはとても便利な点です。広東語でどういえばいいのかわからない単語があれば、とりあえずそこだけ英語単語(カタカナ英語で十分)にして広東語の文に挿入すれば、意外とすんなり通じることがあります。
ところが、これを広州などで同じようにやっても、通じません。
例を挙げて説明します。
ホテルのことを広東語では、「酒店(ジャウディン)」と言いますが、これが思い浮かばなかったとき、香港では
這附近有無Hotel?(この近くにホテルはありますか?)
といっても、たいていはわかってもらえると思います。
しかし、広州で同じように言うと「???」という顔をされるかもしれません。もちろん、中国広東省では、英語も通じにくいです。
つまり、香港人の話す広東語には、英語の音から作った外来広東語や英語そのままの単語が多く含まれています。
発音(アクセント)の違い
香港と広東省の広東語は、発音の違いもあります。香港の広東語に慣れた人は、中国本土の人の広東語は聞き取りにくいと感じることがあるでしょう。
発音やアクセントの感じ方は人によって個人差がありますが、私は、香港人の話す広東語の方が柔らかく感じます。鼻音を使う音が多いのかもしれません。
香港で、何となく聞き取りにくい広東語を話す人に会ったら、その人は中国広東省の出身かもしれません。
また、広東省と言って広いので、その中でも微妙にアクセントに違いがあるようです。ここから先は、関東弁と関西弁の違いのようなものなので、外国人には判別が難しいです。
北京語からの影響
中国本土では、標準語である「普通話」教育が進んでいます。そのため、広東省の人でも広東語を話せない人も増えていると聞きます。さらに広州などの大都市では、他の地方から移住する人もいるので、広東語よりも北京語(普通話)の方が通じやすいことがあるかもしれません。
普通話、つまり北京語が普及している広東省では、すでに広東語が北京語の影響を受けているようにも感じます。私が特にそう感じるのは、声調に関してです。
北京語と広東語は、どちらも声調を持っていますが、文字によって声調に違いあがります。
例えば、飯(簡体字では、「饭」)という字は、広東語では、fān6(ファーン)と読み、低いトーンの長母音です。一方、北京語では、fàn(ファン)と発音し、高いトーンから一気に下に下げる短母音です。
広東語と北京語を両方操る人は、これが双方に影響して、声調が乱れるのではないかと考えられます。つまり、北京語なまりの広東語という感じになるわけですが、この現象は広東省の広東語に顕著に表れるのではないかと、私は思います。
まずは積極的に話してみよう
もうひとつ、外国人から観た香港と広東省という点では、国際都市に住む香港人の方が外国人に慣れています。このため、広東語初心者のつたない広東語でも、香港人はなんとか聞き取ろうとしてくれます。
一方、広東省に限らず、中国本土の人は、外国人とコミュニケーションすることになれていない人が多いので、広東語で話しかけても、怪訝な顔をされるかもしれません。これは、広東語初心者にとって、とてもやる気をそがれる態度です(笑)。
しかし、「私の広東語、やっぱりダメ…」と諦めるのではなく、ぜひ、しぶとく広東語を使ってみてください! 広東語は実地で使わなくてが意味がありません。中国人のしかめっ面に後ずさりすることなく、練習だと思ってどんどん広東語を話しましょう。