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広東語は話し言葉って、一体どういう意味?

中国語

「広東語とはどんな言葉か」「広東語と北京語はどう違うのか」と聞かれると「広東語は話し言葉です」と答えます。でも、この答えにたいていの人は、納得してくれません。「話し言葉である」と言われてもピンと来ないようです。私も最初はそうでしたから、その気持ちはよく分かります。ですから、今回はもうちょっと突っ込んで、「広東語が話し言葉ってどういうことなの?」というテーマで書いてみます。

広東語は中国の一方言

中国語で「こんにちは」は「你好(ニーハオ)」ではない、あいさつと返答

まず、広東語の位置づけをサラッとまとめておきます。

広東語は中国で話されている中国語のうちの一つで、いわゆる「方言」にすぎません。しかし、中国は大変広く、多民族国家でもあります。一口に方言と言ってもその差異は大変大きく、北京語と広東語ではほとんど別の言語として扱うのが普通です。

日本の東京弁と関西弁のような方言とは違って、中国の北京語と広東語では、お互いの意思疎通はまったくできません。

広東語は、中国の広東省や香港で話されています。また、世界に散らばる華僑の多くは、広東省や福建省の出身者が多く、チャイナタウンなどの華僑世界でも広東語は良く話されています。

広東語の表記には漢字を使う


photo credit: At Chinatown in Toronto via photopin (license)

広東語は広東省や香港で話されている言葉ですが、その表記には漢字を用います。漢字は中国語を書き表すものとして発明された文字ですが、中国政府により体系的にまとめられたおかげで、中国の標準語である「北京語=普通話」を表記するにはぴったりの文字です。

広東語も中国語ですので漢字を用いて表記することができます。しかし、厳密には、広東省や香港で実際に話されている「広東語」は話し言葉であるため、それを完全に漢字でもって表記することは不可能です。

「話し言葉」と「書き言葉」


photo credit: Specials – Pacific Seafood BBQ House via photopin (license)

ここからが本題です。

「話し言葉」があるということは、「書き言葉」があるということですね。私たちは普段「言語」として意識する場合、聴覚から入って来る「聴覚言語」と、視認される「視覚言語」の2段階があることを、確認しておきましょう。

私たちは普段日本語を話したり、英語やフランス語を勉強したりするときには、あまり「ことば」と「文字」のことについて深く意識していないと思います。それは日本語も英語もフランス語も「ことば」=「文字」であるからです。

しかし、世界中にある言語の中には「文字」を持たない言葉もたくさんあります。

まずは「音」から始まった


photo credit: GHFC 2007 28Jan07 – 10 via photopin (license)

それはつまり、言語というのは、まず「音」ありき、ということを示唆しています。私たち人間の言語活動において、最初は「音」しかありませんでした。「文字」はずいぶん後になって発明されたものです。

日本語に至っては、自分で文字を発明することができず、中国から漢字を借りて文字としましたね。ひらがな、カタカナができたのは、そのずっと後です。

文字ができると、人間は「書く」ことができるようになります。文字のいうのは大変偉大な発明で、文字があるからこそ、「歴史」という概念が生まれ、私たちは複雑な思考ができるようにもなりました。

明確な「書き言葉」と「話し言葉」


photo credit: Eyes right via photopin (license)

私たちが忘れがちなのは、少し前まで、私たち日本人も「話し言葉」と「書き言葉」を使い分けていた、ということです。

石炭をば早はや積み果てつ。中等室の卓つくゑのほとりはいと静にて、熾熱燈しねつとうの光の晴れがましきも徒いたづらなり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る骨牌カルタ仲間も「ホテル」に宿りて、舟に残れるは余一人ひとりのみなれば。

これは、有名な森鴎外の「舞姫」の冒頭です。文学的に素晴らしく美しい文章です。しかし、発表当時1890年の東京下町の人が、こんな話し方をしていたと思いますか?

当時の日本には、「口語」と「文語」の明確な差がありました。「話し言葉」と「書き言葉」を明確に使い分けていたのです。一部の文学者が「口語」を用いて文学を執筆するようになったのは、明治以降にすぎません。

大阪弁でメッセージを書く


photo credit: Dropbox via photopin (license)

北京語は完全に、漢字を使って表現することが可能です。しかし、広東語は、あくまで「話し言葉」であり、今まで誰も広東語だけを用いて正式な文章を書こうということをしなかったということでしょう。例えて言うなら、大阪弁だけで小説を一冊書いてみるようなイメージかもしれません。

しかも、広東語の中には、いまだに正式に漢字で表記できない「音」が存在します。広東語の辞書においても、あてる漢字が存在しないので、「□□□」として書かれていたりします。

でも、最近の人は、SNSやメールで、そのままべたべたの大阪弁でメッセージを書く人もいますよね。かくいう私も実はそのひとりです(笑)。

話すように「書く」ようになったのはごく最近


photo credit: Message #1 via photopin (license)

これは、言語学者にとってはとても大きな歴史的変化らしいのです。

かつて、人は他人の前でスピーチを行う時、シナリオを書いてそれを読み上げるという方法を用いていました。その場合に使われたスピーチシナリオは、「文語調」のものが多かったといいます。その方が厳格に聞こえるからです。つまり、当時の人々は「書くように話す」ことを行っていました。

しかし、現代の若者は、むしろ「話すように書く」ことを始めたと言語学者のジョン・マクウォーター氏は語ります。これは、人類の言語学歴史上、画期的なことらしいのです。

実際の広東語世界ではどうなっている?


photo credit: Chinese Newspaper via photopin (license)

彼の指摘通り、香港でも広東省でも、人々はメッセージでやり取りする際に、広東語を漢字を用いて書いてメッセージにしています。体系的にきちんとまとめ切れていないのが、広東語なので、人によって当てる漢字が異なっていたりします。それでも、なんとか意味は通じるのでお互いにコミュニケーションが成立します。

言葉は「生きて」いるものです。時代とともにその使われ方や存在方式が異なるのはごく当たり前のことです。特に順応能力に優れている中国人のことです。「広東語は話し言葉、正式文書を書くときはできるだけ北京語、友達とのチャットはなんとなく広東語!」と、うまく使い分けています。

広東語とはどんな言語?中国語の一方言、話し言葉としての広東語
実は以前にも、「広東語はどんな言語か」というテーマで記事を書きました。しかし、また最近よく、「広東語ってどんな言葉?」と聞かれるので、もう一度、分かりやすくまとめておきたいと思います。
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