先日、recommendの使い方について書いたところ、読者の方からご質問があったので、recommend界隈の英文法を掘り下げて説明しておきたいと思います。
recommendは、あとに「人+to do」を置くことができない動詞です。その代わりに動名詞(ing形)やthat節を置いて、recommendすることの内容を示すことができます。
ところが、ここで注意したい点があります。それはthat節の中の動詞は、主節の時制に関わらず、常に原形になるということです。
なお、私は英文法のエキスパートではありませんが、調べた限り、経験から学んだことに限って説明しておきます。
仮定法現在について
先のエピソードの中で、この現象はthat節の中の文には「should」が省略されているためだと説明しました。より厳密にいうと、これは「仮定法現在」という文法になります。
仮定法については、仮定法過去、仮定法過去完了がよく用いられますが、仮定法現在という用法もあります。現実には、英語における仮定法現在は徐々にすたれていく傾向にあるようです。
そもそも、「仮定法(the subjunctive mood)」はラテン語系の言語に由来するのかもしれません。たとえば、フランス語やスペイン語においては現在も仮定法現在が用いられており、仮定法(条件法あるいは接続法と呼ばれることも)として動詞もしっかり活用します。
仮定法という概念は、「実際にはまだ起こっていないこと(potential)」を示すと理解しておくと分かりやすいと思います。仮定法の対極にあるのは「直説法」であり、直説法は実際に起こる「事実(fact)」を述べていると考えられます。
recommendやsuggestなど、提案や要求などを表す動詞の後におくthat節は、「~するのことをおすすめ」するのですから、実際にはまだ起こっていないことになります。そのため、仮定法を用いることになっているのですね。
仮定法現在を用いるのはどんなとき?
後に伴うthat節の中で仮定法現在がよく用いられる動詞は、提案や要求を意味する単語になります。recommend、suggestの他に、
- advise
- demand
- desire
- insist
- propose
- request
- require
などがあります。
He recommended that we drink this wine within a year.
(彼は、そのワインを1年以内に飲むことを勧めた)
この場合、「勧告」を意味する「recommend」が使われているため、that節の中は仮定法現在となり、動詞の原形を置きます。
ちょっとこじつけっぽく聞こえるかもしれませんが、「彼が勧めた(He recommended)」のは過去の事実です。でも、「私たちがそのワインを一年以内に飲む」ことは実際に起こった事実であるかどうかは不明なため、過去形とするのではなく仮定法現在として動詞原形を用いる、と説明することができます。
その他に、「it’s important that~」などの構文におけるthat節の中でも仮定法現在が用いられます。importantの他にこの現象が起こりやすい形容詞には、
- advisable
- compulsory
- crucial
- desirable
- essential
- necessary
- proper
などがあります。
It’s very important that she take the medication every 12 hours.
(彼女が12時間ごとに薬を服用することは非常に重要である)
この例文では、that節の中の主語がsheという三人称単数であるにもかからわず、それに続く動詞は「s」を伴いません。動詞の原形が使われており、仮定法現在であることがわかります。
その他のケースとして、「祈願文」という構文があり、ここでも仮定法現在が用いられることがあります。例えば次のような文です。
God bless you!
(神のご加護がありますように!)
God Save the Queen
(神よ、女王を守りたまえ:イギリス国歌のタイトル)
このような祈願文では主語が「God」という三人称単数であるにも関わらず、動詞に「s」はつきません。仮定法現在形が用いられるため、と説明されます。
先にも述べましたが、フランス語やスペイン語においては、要求や命令の文において接続法が用いられます。フランス語やスペイン語は「接続法」としての動詞活用も激しいので、学習者はこれを覚えないわけにはいきません。
これらの言語において接続法を学習したことのある人は、英語の仮定法現在の概念も把握しやすいと感じるかもしれませんね。
仮定法現在が用いられる実際の例文
仮定法現在が実際に使われるサンプルを確認しておきましょう。
ただし、上述したように英語における仮定法現在(接続法)は徐々に消滅しつつあります。ネイティブの実際の会話においても、仮定法現在が使われるべきシーンで「直説法」が採用されているケースはよくあります。
とはいえ、今でも「正規の英文法」として試験問題には出されることがありますので、英語中級者以上を目指すのであれば、正式文法としてインプットしておきたいところです。
主節が過去形の場合
- (✕) He recommended that she drinks the wine within a year.
- (?) He recommended that she drank the wine within a year.
- He recommended that she drink the wine within a year.
- He recommended that she should drink the wine within a year.
(彼は彼女に対してそのワインを一年以内に飲むよう勧めた)
上記4つの例文では主節の「recommend」が過去形になっているため、従属節(that節)の動詞も過去形に統一して時制を一致させたくなるところです。
しかし、「recommend」はthat節に仮定法現在を使うべき動詞なので、主節の時制に関係なく従属節の動詞は原形を用います。
つまり、3あるいは4が正解。
ただ、現実の会話では2のように時制の一致を起こし、従属節に過去形を置くネイティブもいます。一方で、「正しい英文法」ではないので、これに違和感を感じるネイティブも少なくありません。
そのため、日常会話においては必ずしもNGとはいいがたいのですが、英文を書くとき、フォーマルなシーンでの会話、英語の試験問題などでは「✕」とみなされる可能性が高いです。
1に関しては完全に間違いで、主節の過去形に合わせて時制の一致を起こしているわけでもなく、従属節内に仮定法現在が使われているわけでもありません。4つの文の中で最もふさわしくないものと聞かれたら間違いなく1です。
主節が現在形の場合
以下の例文ではどうでしょうか。
- The doctor suggests that he stay two more days in the hospital.
- The doctor suggests that he should stay two more days in the hospital.
- The doctor suggests that he stays two more days in the hospital.
(医師は、彼はあと二日病院に留まるべきだと提案している)
主節の動詞「suggest」は従属節に仮定法現在を用いる動詞です。ここでは時制が現在形となっています。
一見、「he stay」と三人称単数heの述語stayに「s」が欠けているように見えることでしょう。ですから、1は間違いといいたくなるかもしれません。
ところが、1の例文は仮定法現在が使われているとみなされるため、3つの文の中では正式な文法であると認識されます。
3のように「he stays」と直説法現在を使うネイティブは多いです。このため、3も間違いであるとは言いにくいです。
that節内の動詞がbe動詞の場合
次の例文です。that節内の動詞にbe動詞を用いる場合はどうでしょうか。
- He recommended she be active even after having a bad back.
- He recommended she should be active even after having a bad back.
- (?) He recommended she was active even after having a bad back.
- (✕) He recommended she is active even after having a bad back.
(彼は、彼女に対してたとえ腰痛があっても活動的でいるよう勧告した)
be動詞を使う場合も、仮定法現在においては原形を用いることになります。つまり、1は文法的に正解となり、2も問題ありません。
3に関しては、主節の過去形に合わせて従属節に時制の一致が起こっている例文ですが、文法的には間違いとみなされる可能性が非常に高いです。
ただ、何度も繰り返しになりますが、実際の会話ではこんなふうに時制を一致させて使うネイティブもいるので、この言い方で通じないわけでもありません。許容範囲内ではありますが、ブロークンな英語と解釈されるリスクが高いといえます。
4に関しては、時制の一致も無視して直説法現在が置かれており、完全な間違いです。
that節内の動詞が否定形である場合
次に注意したいのが、that節内の動詞が否定形である場合です。
このケースに関しては、従属節内に「should」が隠されていると想定するのが最も理解しやすいと思います。
- The doctor recommended that he not leave the hospital.
- The doctor recommended that he should not leave the hospital.
- The doctor recommended that he didn’t leave the hospital.
(医師は彼に病院から出ないように勧めた)
例文2はまったく問題なく理解できるかと思います。1に関しては、2の文で「should」が省略されていると解釈すると覚えやすいでしょう。仮定法現在の否定形では動詞の前にnotが置かれることになり、don’tやdoesn’tという形にはなりません。
3は時制の一致が起こっている例文ですが、正式な文法としては違和感があるものの、日常会話ではこのように使われることも多く、文法的に間違いだとはみなされないようです。
特殊な動詞「insist」
仮定法現在形を用いる動詞の一つ「insist」はちょっとおもしろい動詞で、従属節に仮定法現在を用いる場合と直説法を用いる場合とがあり、ニュアンスが微妙に異なります。
- The lifeguard insisted that he not swim because it was too windy.
- The lifeguard insisted that he should not swim because it was too windy.
(ライフガードは強風のため彼は泳ぐべきではないと主張した)
以上に述べたことより、2つの例文はどちらも正しいことが理解いただけるでしょう。仮定法現在の否定形として、1ではnotがそのまま置かれています。
この場合「~だということを主張する」という意味で使われる「insist」ですが、この動詞にはもう一つ「~だと言い張る」という意味を持っています。この意味で使われる場合、that節には直説法を使うことができ、上の例文とは少しニュアンスが変わってきます。
- The lifeguard insisted that he did not swim because it was too windy.
(ライフガードは「風が強すぎて泳げなかった」と言い張った) - The lifeguard insists that he does not swim because it is too windy.
(ライフガードは、風が強すぎるので泳がないと主張した)
この場合、かなりの確率で「The lifeguard=he」であると考えられ、that以下の内容を「言い張る」「~だと断言する」という表現になります。
英語学習者にとっては、2の文を覚えてから1を覚えておくと、比較的すんなり理解しやすいのではないでしょうか。
It’s+形容詞+that節における仮定法現在
- important(重要)
- advisable(推奨)
- compulsory(義務)
- crucial(重要)
- desirable(望ましい)
- essential(不可欠)
- necessary(必要)
- proper(適切な)
- vital(重要)
- imperative(必須)
などの形容詞を使って「It’s+形容詞+that節」構文を使う場合、that以下の従属節には現在仮定法を用いるのが正式な文法とされています。
It’s crucial that she take the medication every 12 hours.
(彼女が12時間ごとに薬を服用することはとても重要である)
ただし、この構文においては、三人称単数形を使って直説法現在としたり、時制を一致させても文法的に間違いとはならないようです。
- It’s crucial that she takes the medication every 12 hours.
- It’s crucial that she take the medication every 12 hours.
(彼女が12時間おきに薬を服用することが極めて重要だ) - It was crucial that she take the medication every 12 hours.
- (✕) It was crucial that she takes the medication every 12 hours.
- It was crucial that she took the medication every 12 hours.
(彼女が12時間おきに薬を服用することが極めて重要だった)
ここまで読んでいただくと、4は決定的に間違っていることは理解していただけたのではないでしょうか。
その他の例文は、文法的間違いとはみなされませんが、2及び3のように仮定法現在を使う方がフォーマルな印象を与えるようです。
似たような表現として、以下のように言うこともできます。
It is crucial for her to take the medication every 12 hours.
意味はまったく同じですが、比較的カジュアルな表現としてみなされるようです。仮定法を意識しなくて済むので、英語学習者にとってはこちらの方が容易だと感じられることでしょう。
先に紹介した例文のように、仮定法現在を使うフォーマルな表現もあるということは知っていて損はないと思います。
なお、英文法については、ネイティブや地域によっても若干のブレがあるようです。基本的な考え方は以下のサイトを参照させていただきました。